共振型ゲート駆動回路の電力低減とゲート電流制御に関する研究
■動作および原理
[方法2]オーバーシュート分を織り込みSW1/SW2のPWMデューティを設定する.
方法2の場合,ILgの連続状態のみをあつかいます.図a-4のようなLCの系に,ステップ状の電圧を与えた場合,VoにはVi電圧を越える電圧がオーバーシュートとして出力されます.ここで紹介する方法はあえてこのオーバーシュートを利用する方法です.まず,オーバーシュートの最大値について理論的に求めてみましょう.
LC回路の伝達関数からSTEP応答は
式e-1
Vo(t)の最大値は において
Vo_max = 2Vi 式e-2
となります.つまりLCの系にステップ状の電圧を与えられると,図a-4におけるCの電圧または図a-1におけるIGBTゲートの電圧は,入力電圧の2倍の電圧が最大であたえられる瞬間があります.この過渡現象を逆に利用するのであれば要求されるVo電圧(ゲート電圧)に対して,半分の電圧を与えれば,Voの目標電圧にあわせてオーバーシュートなく適度に充電可能になります.
つづいて図a-4の系において,Viをある固定デューティのPWMパルスを入力した場合について考えてみます.Viのスイッチング周波数がLCの共振周波数よりも充分大きい条件のもとでは,LCのロー・パス・フィルタの効果によってスイッチングによる高周波はVo側には伝達されにくくなります.反対にViに含まれる低周波成分(Vi PWMパルスの場合は主に直流成分)が伝達されやすくなります.Vi PWMパルスは,フーリエ級数の概念から信号を構成するSTEP状の直流成分と各周波数成分に分解できます.そのVi PWMに構成される直流成分についてはPWMデューティーをDとすると,次の関係があります.
Vi_dc = Vi・D 式e-3
図a-4の系において,Viパルス印可の応答は式e-3の直流成分によるSTEP応答とスイッチングによる高周波交流成分による応答との重ね合わせによる合成波形がえられます.その応答波形は,直流成分による応答波形にスイッチングによるリップルを加えた波形となります.
上記の関係からViパルスによるVoのオーバーシュートの最大値を求めていきましょう.まず,Viパルス直流成分による応答波形は式e-1に式e-3を適用して式e-4のように求められます.
式e-4
式e-4よりVo(t)の最大値は において
Vo_max = 2Vi・D 式e-5
と求めることができます.よって,ViのPWMパルスのデューティstepの直流成分のみを考えた場合,単純なDC信号のSTEPと全く同様の結果が得られます.ただ,異なる点はこの直流成分の応答にスイッチングによるリップルが加わるということです.式e-5の関係から,本ゲート駆動回路のSW1,SW2のスイッチング・デューティは50%以下に設定することによって前記した1/2の直流電圧を与えた場合と同様の効果が得られオーバーシュートを抑制することができます.
ここまでは,ILg連続領域の話です.常にILg連続の状態の場合,式e-4によるとを電圧のIGBTゲートのピークとしてその後,Vo(2π√(LC)) = 0に向かってIGBTゲート電圧が低下していきます.しかし,本ゲート駆動回路の場合には異なります.Viに相当する電圧は,SW1オン時のB1電圧と,SW2オン時の0Vと,さらにSW1,SW2オフ時のハイ・インピーダンスの3stateの状態になるため(寄生ダイオード通電時もオンとする),SW1,SW2オフ時のハイ・インピーダンスの状態ではILg不連続の領域になります.
すると,Vi PWMパルス・デューティDのSTEP応答の場合には
Vo ≦ Vi・D 式e-6
の状態においてはILgが連続となり,
Vo > Vi・D 式e-7
の状態においてはILgは不連続となります.
このことから実機においては式e-6の条件では,方法2によりゲート駆動され,式e-7の条件では方法1によるゲート駆動となります.このようにIGBTゲートに与える充放電方法を外部要因の動きによって自動的に切りかえることになります.ということで外部因子の挙動を制御側がフィードバックすることなく回路の自然な特性を利用してシンプルなゲート駆動システムを実現できることになります.
SW1,SW2のスイッチング周波数の設定について触れておきます.本ゲート駆動回路の場合,LCの共振周波数よりも充分大きい周波数が要求されますが,実際スイッチング周波数の大きさにともなってSW1,SW2のスイッチング損失が大きくなり,省電力のメリットが目減りします.そこでLCの共振周波数よりも大きい範囲でなるべく小さいスイッチング周波数を設定する必要があります.一般に制御機器におけるスイッチング周波数は制御周波数の1[decade](10倍)以上大きい周波数に設定します.
このゲート駆動回路の場合は,仕様としてオーバーシュートをどれくらい見込めるのかといったところから,実機ベースでテストを重ねスイッチング周波数を極力低く設定することが望ましいと考えています.