トランジスタの構造4

つづいて,PNP型のトランジスタの構造にもふれておきましょう.ここでは,NPN型トランジスタと同様,はじめにVCE=0[V]の条件下でのVBEバイアス印可を,つづいてVCEに順バイアスを与えてのPNPトランジスタのエネルギー構造および特徴について考えましょう.


図3-3-5 PNPトランジスタのバイアスと特徴

VCE=0[V]の条件が与えられますので,コレクタおよびエミッタ極のフェルミ準位は同電位になります.その状態においてベース−エミッタ間に電圧が与えられますので,VBEに応じてベース極フェルミ準位はエミッタ電位に対して相対的に変化します.

VBE エネルギー構造
順バイアス
0[V]
逆バイアス

表3-3-3 VBEとエネルギー構造の関係

表3-3-3では,ベース−エミッタに対して順バイアス,0[V],逆バイアス印可でのトランジスタのエネルギー構造を示しています.VBE順バイアスでは,ダイオードにおける順バイアス印可と同様にバイアスによって障壁を埋め伝導帯の電子および価電子帯のホールの移動が可能になります.

VBE=0[V]では,伝導帯の電子および価電子帯のホールは,わずかな障壁ではありますが越えて移動することはほとんどありません.

つづいて,逆バイアスではダイオードにおける逆バイアス印可と同様にVBE=0[V]における障壁よりもさらに大きくなりますのでVBE=0[V]におけるキャリアの移動量よりもはるかに小さくほとんど通電しません.

ここでVBE順バイアス時,エネルギー構造のキャリアの分布に着目すると伝導帯では,コレクタからエミッタまでキャリアとなる電子が分布し外部から電界が与えられれば(VCEに相当)キャリアの移動(通電)が可能となる状態になっていることがイメージ的に捉えることができると思います.

図3-3-5に示すVCEに正のバイアスを与えていきます.各極のフェルミ準位はエミッタ極のエネルギー準位に対しコレクタ極のエネルギー準位が高くなります.この条件下でVBEにバイアスを与えていきます.

 
VBE エネルギー構造
順バイアス
0[V]  
逆バイアス

表3-3-4 VBEとトランジスタのエネルギー構造

表3-3-4はVCEに正バイアスを与え,VBEに対して順バイアス,0Vバイアス,逆バイアスをそれぞれ与えたときのPNPトランジスタのエネルギー構造を示しています.コレクタ − エミッタ間の電位差(VCE)に注目すればいずれも同電圧が与えられているのでコレクタ極とエミッタ極間のフェルミ準位の差はいずれも同じになります.その上で,エミッタ極に対するベース極のフェルミ準位の電位VBEが上表のようにそれぞれ与えられている様子を示しています.

VBE順バイアス印可では,価電子帯に着目するとエミッタ極からベース極への障壁が低くバイアスされるので,VBEの大きさに応じてベース電流が流れ同時にベース極にホールが送り込まれホールの濃度(すなわちキャリア濃度)が上昇します.こうしてベース極に送り込まれたホールはベース極よりもエネルギー準位の低いコレクタ極へ移動が可能となり,コレクタ − エミッタ間の通電が起こります.

このとき,コレクタ − エミッタ間の通電におけるキャリアは価電子帯の電子のみにより行われます.伝導帯についてもVBEバイアスにより価電子帯同様障壁電位は低くホールが存在すればキャリアとなって移動可能ですが,このキャリアとなる電子はP型のコレクタ極よりほとんど供給されませんのでPNP型については伝導帯の電子による通電はされない特徴があります.

VBE0Vおよび逆バイアス印可では,エミッタ − ベース間の障壁を電子およびホールのいずれも越えることはほとんどできませんのでエミッタ − ベース間の通電も,エミッタ − コレクタ間の通電もなされません.

PNP型のトランジスタもNPN型と極性こそ異なりますが同様の特徴を備えていることがわかると思います.

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