フェルミ・ディラックの分布
シリコン結晶(真性半導体)は熱などのエネルギーを受けると励起によって伝導帯に自由電子,価電子帯にホールをつくります.このように熱励起によってつくられる電子分布は,Si原子に限らずすべての物質について次の関係式3-1-1によって示されます.
式3-1-1 | キャリア存在確率:P[-] エネルギー準位:E[eV] フェルミ準位:EF[eV] 温度:T[K] ボルツマン定数:k[J/K] |
この式中のPは電子の存在確率0〜1(0は0%,1は100%)で示し,この式の引数であるE[eV] は物質中の電子の位置エネルギーを示すエネルギー準位です.さらに式中のEF[eV] はフェルミ準位と呼ばれ,電子の存在確率が50%であるエネルギー準位を示します.この関係をフェルミ・ディラックの分布といいます.
式3-1-1の関係を図に示すと
図3-1-9 フェルミ準位と電子の分布
確率0.5(50%)のフェルミ準位を境に点対称となるExponential波形となります.図のようにエネルギー準位の低い方ほど電子が充填されエネルギー準位の高い方ほど存在しない状態になります.これは物質を構成する分子の温度分布の相関として考えることもできます.
Si 真性半導体の場合,価電子帯と伝導帯の間に禁止帯(禁制帯)が存在するので電子分布は図3-1-9とは異なります.
図3-1-10 Si 原子の電子分布
仮に(熱)励起が無い状態(絶対零度)に,価電子帯は電子で満たされ,伝導帯には電子が存在しない状態を想定します.この状態から熱などのエネルギーを与え,励起を起こすものとした場合,電子分布は図3-1-10のようになります.
この時,伝導帯に自由電子,価電子帯にホールを一対でつくるため伝導帯の自由電子と価電子帯のホールは同数存在することになります.よってSi 原子のフェルミ準位EF[eV] は価電子帯と伝導帯の中間にある禁止帯のさらに中心に位置します.