ドープ量と特性の関係
PN構造をもつダイオードは,様々な用途に特化した多種多様のダイオードが開発されています.たとえば,一般の整流用,ツェナーダイオード,ファストリカバリー,容量性ダイオード,発光・受光ダイオードなど.これらは,基本となるPN構造デバイスにもともと備わった物理現象を利用しています.
これらはこうした用途に特化するため,製法や,半導体素材や添加(ドープ)物質もそれぞれ最適なものが選定されているものと思います.しかし,素材の特徴も一般に物理的なパラメータに換算できますので,ダイオード等の半導体製品は,ベースとなる真性半導体に対する添加物質の量(ドナー電荷量およびアクセプタ電荷量)といった極シンプルな物理モデルとしての視点で考えてみましょう.
そこで添加物質の量と,各ダイオードパラメータとの関係についてのイメージを捉えていきます.表3-2-4は,ある一般整流用ダイオードに添加されているドープ量を基準として,そこからドープ量を仮に増減するものとして,ダイオードの各パラメータがどのように変化していくのかを示します.
ダイオード パラメータ |
ドープ量 大 |
ドープ量 小 |
備考 |
逆バイアスに対する空乏層幅 | 小 | 大 | 仮にPN両半導体にドープ量0とした場合,全領域が空乏層(実際は真性半導体)となります.この状態からドープ量を増加していくとキャリア濃度が電極側から増加していきます.一方空乏層領域は反対に縮小. |
逆バイアスに対する空乏層内の電界 | 大 | 小 | 逆バイアスを与えたときの空乏層内の電界は,逆バイアスの大きさに比例し,空乏層の幅に反比例します.よって上項を踏まえると空乏層内電界は,ドープ量に比例. |
VF | 小 | 大 | VFは主に障壁電位とTj(接合部温度)温度に関係します.ドープ量に関係するパラメータは抵抗率です.そこでVFに含まれる(抵抗による)電圧降下分が影響しますので,単純にドープ量(キャリア濃度)に反比例します. |
VR耐圧 (アバランシェ電圧) |
小 | 大 | アバランシェ降伏は空乏層内の電界がある一定値以上になるとキャリアが電離することによります.そのためアバランシェ電圧は,上項空乏層内電界の大きさに反比例.よってドープ量に対しては反比例. |
逆回復時間 | Soft | Fast | 逆回復時間はPN内のキャリアが逆流することにより空乏層を形成するまでの時間なので,半導体内キャリアの総電荷量に関係します.ドープ量の大小を,仮に同 Ir(リカバリー電流)で比較したとすれば,逆回復時間はドープ量に比例.(ドープ量が多いほど遅い) |
端子間容量 | 大 | 小 | 一般に静電容量は,極板面積に比例し極板間隙に反比例します.ダイオードの場合極板間隙に相当するものが空乏層の幅ですので,逆バイアスに対する空乏層幅の項を踏まえるとドープ量に比例. |
表3-2-4 ドープ量とダイオードパラメータの関係
ダイオードという部品の捉え方について,ここではちょっと視点を変えて考えてみたいと思います.仮に,ダイオードのバリエーションが,ちょうど抵抗やコンデンサといったリニア部品のように,ドープ量がリニア設定されるデバイスとして捉えてみたら...
たとえば,ダイオードを使って低周波交流を整流する系があったとして,この系に,僅かにリカバリーノイズが気になるといった課題があったとしましょう.このダイオードには,低周波整流用途の低VF一般品が選定されているものとします.ここでは,どのように対策することができるのでしょうか?
この例では,漠然としているので,様々な対策方法が考えられます.たとえば,用途でダイオード選定するのであればファストリカバ品の選定も可能です.ただし,高VF化など別の課題も生じる可能性もありますが,問題なければもちろんOKでしょう.
他のパラメータに大きく影響を与えない範囲で対策するとしたら,表3-2-4に示すように,リカバリー時間のFast化,つまりドープ量減の方向性を検討する価値があります.具体的には元々選定されていたダイオードのメーカの提供するシリーズ内において,耐圧の高い部品をテストしてみるという方法も有効である場合があります.