ダイオードのリカバリー特性
図3-2-22の系のように,ダイオードに交流電圧を与えたとき,ダイオードに流れる電流の特徴について説明します.
図3-2-22 ダイオードへの交流電圧の印可とリカバリー特性
通常ダイオードは,順方向バイアスで通電し,逆バイアスで通電しにくい整流作用(詳細はこちらを参照)があります.ここでは図3-2-22のように最初順方向での通電を定常的に行っている状態から,ステップ的に逆バイアスを与えたときのダイオード電流Idを考えていきます.
図2-3-23から図2-3-25は,定常的に順方向にバイアスして通電している状態,バイアス方向が変化した過渡期の状態と定常的に逆バイアスを与えている状態のダイオードモデルを示しています.
状態 | ダイオードのキャリア移動 |
定常状態での 順バイアス |
図3-2-23 |
バイアス変化 過渡期 |
図3-2-24 |
定常状態での 逆バイアス |
図3-2-25 |
表3-2-3 バイアスのステップ変化とキャリア移動
順バイアスで定常に通電している状態(図3-2-23)では,負極からN型半導体に電子が次々に供給され,正極からはP型半導体にホールが次々に供給される状態になります.さらに,それらのキャリアは外部からのバイアスによる電界によって電子,ホールが移動しPNそれぞれの半導体にキャリアが満たされている状態になっています.
この状態から瞬時にバイアス方向が変化した場合(図3-2-24),逆バイアスが与えられると各キャリアは,順バイアス時に移動していた方向とは反対に移動を開始します.ここでは,通常のダイオードの整流作用とは反して逆方向の電流が流れることになります.
しかし,負極あるいは正極からはキャリアの供給はありません.逆にホールが負極,電子が正極に引き寄せられていきます,ある一定時間が経過すると図3-2-25のように,接合部近くはキャリア濃度の低い空乏層を形成しダイオードは通電しない状態になります.
その様子を,Vi,Vo,Idについての関係を示したグラフが図3-2-26です.
図3-2-26 リカバリー特性
順バイアスが与えられているオン状態から,バイアス方向(極性)が変化して逆バイアスが与えられても蓄積されたキャリアによって通電が可能な状態があります.この逆流が可能な時間をリカバリー時間(逆回復時間)といいます.ダイオードメーカから提供されるデータシートでは,trr パラメータによって示されます.ただし,trr の定義(測定条件・回路)は各メーカによって異なっていますので注意が必要です.
ダイオードがオフ状態になると,図3-2-22の系では,ダイオードに寄生する静電容量と抵抗とによって,CR過渡波形(詳細はこちら)を描きます.
一般に,リカバリー時間の早いダイオードをファーストリカバリー・ダイオードといい,リカバリー時間の遅いダイオードをソフトリカバリー・ダイオードといいます.