ダイオードの静電容量
P型とN型の半導体を接合すると接合部には空乏層ができます.この空乏層はキャリア濃度の小さい領域でP型,N型の半導体に比べると電気伝導性が低い特徴があります.
図3-2-21 PN接合部と空乏層を挿んだ極板構造
図3-2-21はPNダイオードの接合部のモデルで,このダイオードに逆バイアスを与えている状態を示しています.
図のようにPNダイオードに空乏層が存在する状態では,P型,N型それぞれ,キャリアの多く存在する領域と空乏層のキャリアが少ない領域とに分かれます.
それらキャリア濃度の異なる領域は,キャリア濃度に応じて電気伝導性も異なっています.図3-2-21では導体領域と非導体領域とを極端に分離して図示していますが,実際は,リニアな濃度勾配を示していると思います.
ここでは,この電気伝導性の低い空乏層を電気伝導性の高いP型,N型の領域で挿んでいる構造に着目していきます.
絶縁体を2枚の電極板(導体)で挿む構造は,ちょうどコンデンサの構造に似ていることが図3-2-21から読みとれると思います.このようにしてPN構造をもつダイオードは,アノード,カソード間に静電容量が寄生する特徴があります.
一般に静電容量は,式1-4-8のように極板の面積に比例し,極板間隙に反比例の特徴があります.PNダイオードの場合は,極板間隙に相当する空乏層の幅は,半導体の製造時にドープしたキャリア濃度と逆バイアスに関係しています.空乏層の大きさは,逆バイアスの大きさに応じて拡大しますので式1-4-8における極板間隙長d[m]とバイアスの大きさは準比例関係にあります.そのため,ダイオードの静電容量は逆バイアス(電圧)とは反比例の関係になります.
こうした外部のバイアスによってダイオードの静電容量をコントロールできる特性を積極的に応用した素子がバラクタになります.バラクタ以外のダイオードであってもこの静電容量は存在します.一般的にメーカの配布するデータシートに,端子間容量などのパラメータ名で記載されています.
ちなみにPN間の静電容量は,ダイオードに限ったことではありません.PN構造をもつ(含む)半導体素子(製品)には,空乏層を介して必ずこうした静電容量が寄生しています.たとえば,後述しますがトランジスタのコレクタ−ベース間容量など様々なところに寄生しています.
蛇足ですが,トランジスタのリニア領域を使った補償器(補償器とは増幅器,フィルタなどの信号伝達回路)を設計する場合にはこうした寄生容量による帰還(フィードバック)を無視できない場合があります.また,デジタル用途においてもスイッチングのスピードに影響を与えるバラメータになります.半導体を用いた回路設計ではこうした寄生容量を必要に応じて設計に組み込む必要があります.