ツェナーダイオード
ダイオードに,逆方向のバイアスを与えると空乏層内にバイアス(電圧)の大きさに応じて電界が生じます.この電界により価電子には電気力が働きます.図3-2-9 は高い逆方向バイアスを与えたときの空乏層内のエネルギー構造(エネルギー構造について詳細はこちら)を示しています.
図3-2-9 アバランシェ降伏と空乏層内のエネルギー構造
図のようにダイオードに高い逆方向バイアスを与えることによって,空乏層内のアクセプタバンド(アクセプタについて詳細はこちら)に拘束されていた電子が電気力により拘束より引き離され,伝導帯に励起されます.励起された電子は自由電子となり電気伝導性が促進されます.このようにダイオードに逆方向バイアスを与えたとき,価電子の電離による逆流の現象をアバランシェ降伏といいます.
アバランシェ降伏が始まる電圧は,アクセプタに作用する電界の大きさ,と熱などの励起の条件に関係します.電界の大きさは,逆バイアスの大きさに比例し,空乏層の幅に反比例します.(ちょうど極板間の電界のイメージ)
逆バイアスに対する空乏層の幅は,アクセプタまたはドナーのドープ量に応じて調整することができます.ドープ量が一定に封入してある(一般の)ダイオードであればアバランシェ電圧はおよそ一定となり図3-2-10のようなIV特性を示します.ただし,熱(励起)の影響はありますので,温度による特性変化はさけられません.
図3-2-10 ツェナーダイオードのIV特性
このアバランシェ降伏の現象を積極的に利用して,この機能に特化したダイオードをツェナーダイオード(1)といいます.アバランシェ降伏はツェナーダイオードだけに発生する現象ではなく一般のすべてのPN接合ダイオードに起こり得る現象です.
(1)ツェナーダイオード
アバランシェ電圧は,上記載のようにアクセプタに作用する電界の大きさ,と温度(熱励起)の条件に関係していることを説明しました.これによると熱励起によって温度が高ければ高いほどアクセプタからの電子の電離が促進するため,ツェナー電圧が低くなる:温度特性は負の温度係数をもつことが考えられます.
しかし,一般に市販されているツェナーダイオードはVz=5.1[V]前後を境に温度係数が反転しているようです.(NECのRD*.*Eシリーズにて確認)
蛇足ですがここら辺の特性はエンジニアには経験則としておなじみで,ツェナーダイオードを基準電圧として利用する場合,一般にVz=5.1[V]が使われることが多いのは温度特性上のデータに基づき温度ドリフトを最小に設定できるためです.
温度係数が反転の特徴については,NECの技術資料によると
Vz:5〜6V以上 : アバランシェ降伏によるものが支配的
Vz:5〜6V以下 : トンネル効果によるものが支配的
ということで,5〜6[V]を境に異なる物理現象を利用して定電圧特性をつくっていることになります.物性が異なるということですが,もっとくだけた言い方をすれば,異なる部品と言っても過言ではないかもしれません.(製造プロセスはほぼ同じであるとおもいますが)
この点は注意が必要で,5〜6Vのツェナー電圧を境にIV特性が全く異なることはデータシートからも読みとることができます.一般にエンジニアの間では経験的に知っていることだと思います.
よって回路上でVzの変更は抵抗値の変更のように安直に実施することはできません.特に特性変化点をまたぐVz定数変更は,同じツェナーダイオードの置き換えでありながら,全く異なる部品への変更として対応しても行き過ぎではありません.