トランジスタの増幅機能
これまでコレクタ − エミッタ間バイアスと,ベース − エミッタ間バイアスとトランジスタのエネルギー構造について考えてきました(詳細はこちら).そこではベース − エミッタ間バイアスによってエミッタ − コレクタ間の障壁電位が調整可能であることがイメージできたと思います.
ここでは,ベース − エミッタ間バイアスとエミッタ − コレクタ間電流の関係を考えていきます.まずはじめに,ベース − エミッタ間のバイアスとベース電流の関係から考えていきます.
系
エネルギー構造
図3-3-6 ベース−エミッタ間バイアスとベース電流
図3-3-6はNPNトランジスタについてベース−エミッタ間バイアスを与えた場合のエネルギー構造について示しています.このときのベース−エミッタ間バイアス(VBE)とベース電流(IB)の関係は,次式のように与えられます.
IB =IS(AbVBE-1) | 式3-2-5 | VBE[V]:順方向バイアス IS[A]:飽和逆方向電流 A[ ]:固定定数 b[V-1]:温度に係わる係数 |
図3-3-6の系では,ベースとエミッタだけの接続系ですので,単純なPN接合のバイアス印可と電流の関係と見立てることができます.よって,ここでは,VBEとIBの関係式は,PNダイオードのVF − IFの関係を踏襲することができます(式の詳細説明はこちらを参照).
障壁を越えることのできるベース極部伝導帯の電子濃度は,フェルミ・ディラック分布の関係に従いますので,電位VBEに対して指数関数(Exponential)の関係になります.
このように,ベース極のP型半導体伝導帯部キャリア濃度は,VBEによってのみ調整される特徴があります.この特徴を踏まえてVCEに電圧を与えた場合の電流を考えましょう.
図3-3-7 NPNトランジスタのバイアス系
以前に,ベースopenにてVCEに電圧を与えた場合の特徴を解説しましたが,ここではもうちょっと詳しく見ていきます.
コレクタ − エミッタ間を,NPおよびPNダイオードの順(逆)バイアス印可の直列接続となっているイメージとして捉えると図3-3-7のVCEバイアス印可の系では,エミッタ − ベース間に構成されているNPは順バイアス,ベース − コレクタに構成されているPNは逆バイアスに印可されていることになります.
そこで,これら2個のダイオードのインピーダンスに着目すると順バイアスのエミッタ − ベース間のNP(ダイオード)は低インピーダンスとなり,逆バイアスに印可されているベース − コレクタ間のPN(ダイオード)は,高インピーダンスとなります.よってコレクタ − エミッタ間に与えられる電圧の大部分がベース − コレクタ間にかかる特徴があります.
これを踏まえると,エミッタ − ベース間のPN接合部にかかる電位差はVCEの影響は小さく.さらに言いかえると,エミッタ → コレクタ間に構成されているベース極の障壁電位にもVCEの影響をほとんど受けることはありません.ただし,影響が全く無いわけではありません.VCE変化によるコレクタ電流への影響はこちらを参照してください.
VCE 小 | VCE 大 |
そのため,ベース極のP型半導体伝導帯部分のキャリア濃度についてもVCEの大きさ変化による影響が小さいことがわかると思います.