アーリー電圧
図3-3-31は,NPNトランジスタのエミッタ接地回路における コレクタ電流IC と コレクタ − エミッタ間電圧VCE の関係を示しています.
図3-3-31 IC-VCE特性とアーリー電圧
ここで,各ベース電流IB条件のIC − VCE 特性 それぞれから第二象限に向かって延長線を引いた場合,VCE軸上に一点に結ばれるという計算上のトランジスタモデルがあります.
その点のVCE軸上の電圧(絶対値)をアーリー電圧といいます.
アーリー電圧を用いたトランジスタ・モデルはSPICEにもよく用いられています.そのため,アーリー電圧モデルとしてのトランジスタも知っておく必要はあります.しかし,現実のトランジスタの特性と必ずしも一致するものではなく,実際の回路設計の場合には,現実のトランジスタの生の特性を用いて回路設計をすることが一般的です.
ここでは,図3-3-31の第一象限において,コレクタ−エミッタ間電圧VCEの増加によって,コレクタ電流ICが上昇するという特性を解説します.
図3-3-32は,ベース電流IBが一定の条件で,VCEを増加させた時の空乏層の広がりを図示しています.
図3-3-32 VCE増加による空乏層の広がり
ここで着目する点は,空乏層の広がりがコレクタ領域にだけでなくベースの領域にも食い込む所です.VCEの増加によって,ベースの導通域を狭くすることになります.
トランジスタには,ベース電流一定の条件を与えていますので,ベースの導通域の体積が減少してもキャリア電荷の総量はほぼ一定に保たれます.よってキャリア電荷の体積あたりの密度が大きくなります.これは,障壁を超えるキャリアが増加することになり,コレクタ電流の増加に直接影響を与えることになります.