OKAWA Electric Design

エミッタ容量CibとhFEの周波数特性の関係

ベース−エミッタ間への電流STEPの応答では,vBEバイアスが与えられるまでのエミッタ容量Cibへの充電時間に応じた遅延が存在することを説明しました(詳細こちら).

ここでは,すでにベース−エミッタにバイアス電流が与えられている状態で,信号を印可し応答を考えます.


図3-3-18 エミッタ容量CibhFE

図3-3-18は,トランジスタのベース極に電流信号源iBと,直流電流源iBdcを接続した系です.直流電流源iBdcはトランジスタにバイアス電流を与えます.そのバイアス電流に加えてiBの信号電流を与えます.ここでも,コレクタ端を開放として考え,Cob等コレクタ側の影響を排除してCibibの関係を求めていきます.

ここで,ベース−エミッタ間のV-I特性に着目して,簡易的な抵抗によるモデルを考えます.次の式3-2-5はダイオードのV-I特性です.

  IF =IS(AbVF-1) 式3-2-5 VF[V]:順方向バイアス
IF[A]:順方向電流
IS[A]:飽和逆方向電流
A[ ]:固定定数
b[V-1]:温度に係わる係数

ベース−エミッタ間のV-I特性も,ダイオードと同様に式3-2-5によって示されます.IF-VFの傾きがダイオードの抵抗値であることから

A=eとして
  
  

 

式3-3-7

式3-3-7


VF[V]:順方向バイアス
IF[A]:順方向電流
IS[A]:飽和逆方向電流
R[Ω]:ダイオードの抵抗値
b[V-1]:温度に係わる係数


図3-3-19 ベース−エミッタ間(ダイオード)の抵抗値の例

図3-3-19上は,ダイオードのIF-VF特性(式3-2-5)を,図3-3-19下は,図3-3-19上に示すIF-VF特性の傾き,すなわち式3-3-7に示す抵抗値をグラフに表したものです.


図3-3-18の系で,ベースに与えるバイアス電流iBdcが一定でこのバイアス電流に対して信号電流iBが充分小さい場合,式3-3-7に示す抵抗式を一定値として考えることができ,次の図3-3-19の様なシミュレーションモデルとして示すことができます.


図3-3-20 ベース−エミッタ間の抵抗モデル

ここでiBに対するibの伝達関数を求めると.  (計算過程はこちら

   式3-3-8 Rbe[Ω]:ベース−エミッタ間抵抗値
Cib[F]:エミッタ容量
iB[A]:ベース電流
ib[A]:Cib電流除くベース電流

一次遅れの線形伝達系として簡易モデル化できます.このモデルから,エミッタ容量Cibの存在によってhFEは図3-3-21のような周波数の減衰特性を持つことになります.


図3-3-21 エミッタ容量CibによるhFE周波数特性例

図3-3-21のhFE周波数特性は,Cibのみの影響を反映して(Cob等コレクタ側の影響を排除して)求めています.そのため実際のトランジスタのhFE周波数特性とは異なりますが,一般的に一次遅れ要素である傾向は同様で,利得帯域幅積が低周波寄りになります.

たとえばコレクタが直流電源に直接接続される測定回路の場合,Cobが交流的に接地されることになるので,式3-3-8から求められる利得帯域幅積(hFE周波数特性)は,CibCobの値を加えることによって少し低周波寄りになります.

さらに,CibCobの様な拡散容量,接合容量や機構上形成される容量のほかにベース極内に残留する電荷(容量)が存在します.この容量は極板構造のような一対の形状を持ちません.この容量に充電される電荷は,ベース極に存在するキャリア総電荷量です.ベース,コレクタ,エミッタからのすべての流入電流総和が積算された電荷量ということになります.

そのため,ベース電流のみによって直接残留電荷のコントロールができません.その反面,この容量に存在する残留電荷は,時間とともにエミッタあるいはコレクタに流出し電気的に中性となります.そのため極短時間ではありますが,この残留電荷によってキャリアの余剰や不足が発生することになります.

この残留電荷はとらえどころの難しい要素ですが,ある短時間(高周波域)においては容量性の性質も持ち,さらにある一定時間後には残留電荷がリセットされる時間遅延の要素とを複雑に併せ持つ存在とイメージします.

このキャリア電荷をもうちょっとすっきり書くと,ダイオードにおける逆回復時間の原因となる残留キャリア電荷に似た存在といったらわかりやすいかもしれません.

よって実際のhFE周波数特性の算出には,CibCobのほかにベース極の残留電荷容量を加味する必要があります.一般にメーカの提供するデータシートでは残留電荷容量を記載することはほとんどありません.しかし,反対に記載されることの多い,hFEおよび利得帯域幅積iB-vBE特性→Rbe,などから(メーカの定める測定回路における)ベース極の対GND容量が式3-3-8を用いれば算出も可能です.