ダイオードの静特性2
ダイオードのI-V特性の近似式(次式詳細こちら)について前述しました.ここでは,この近似式の利用例を紹介します.
IF =IS(AbVF-1) | 式3-2-5 | VF[V]:順方向バイアス IS[A]:飽和逆方向電流 A[ ]:固定定数 b[V-1]:温度に係わる係数 |
電子回路に組み込まれたダイオードの損失測定について考えます.ダイオードの損失電力は,ダイオードに流れる電流とダイオード端に印可される電圧の積から求めることができます.
損失電力の測定の場合,VFとIFとをそれぞれ計測して単純に積を求めればいいのですが,測定が難しい場合もあります.たとえば,VFの大きさに対し比較的大きな電圧を整流する場合,オシロなど測定器のレンジの都合によってはVFを精度よく測定できません.(順方向バイアスは大きくても数ボルトですが,逆バイアスは特に際限はないので数百,数千ボルトのレンジを必要とする場合もあります).
そのような場合に,実測のIFから式3-2-5を使ってVFを間接的に算出して損失電力を求める方法があります.その場合あらかじめ,被測定ダイオードのI-V特性を予備測定し,式3-2-5の各パラメータを求めておく必要があります.
その上で,IFの時系列の離散データを取得し,VFおよび損失電力を算出していきます.式3-2-5についてIFを引数とした VFの関数に変形しておきます.
式3-2-6 | VF[V]:順方向バイアス IS[A]:飽和逆方向電流 A[ ]:固定定数 b[V-1]:温度に係わる係数 |
図3-2-32は,正弦波交流電源をダイオードによって整流した電圧を,抵抗Rに与える系です.この系を例題として電流 i 測定したものと想定して,図のDiode ModelのVFおよび損失を計算例を示します.
図3-2-32 ダイオードI-Vの測定
v=141sin(2π50t)[V]
R=100[Ω]
Rd=0.004[Ω]
Is=1.0e-14[A]
b=45.7[V-1]
図3-2-33 ダイオード単体のI-V特性
図3-2-33のIf-Vf特性は,図3-2-32の系においてRdを含めた特性です.このIf-Vf特性は,測定からA,b,Is,Rdを設定して実測に即したVF,損失電力を算出することが可能です.
さらに,SPECからVfの最大値(特性)を設定して最大損失を換算することも可能ですし,Tj変動の予測をTjを引数とした関係式として算出することも可能です.
図3-2-34 v,i,Vf,損失電力波形
図3-2-34は,If,Vf の積から瞬時損失電力を求めています.ここから実効電力を求める場合は,こちらの記事を参照してください.
この記事ではダイオードのI-V近似式の利用を,測定の分野に絞って解説しました.設計段階では,図3-2-32の系のように正弦波や矩形波など定型の信号印可の場合であれば,SPICEによるシミュレーション(モデリング必須)が効率の良い方法でしょう.
しかし,上記にもふれたTjを引数としたIf - Vf 関係式が設定できれば,理論上の最大損失の算定,最大Tj の算定など広い応用することができます.また,複雑な通電条件等あらかじめ設定されていてその条件に即した損失設計をする場合にも有効です.