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磁界の強さHと磁束密度B

磁界の強さH について説明します.これまで磁界の大きさを示す定量的な尺度として磁束密度を取り上げてきました.それは磁束密度の定義F=ILB電流のつくる磁界参照,式1-5-4参照)からいえるように,場から受ける力学的な作用が磁束密度と比例関係にあることから磁界の大きさを示す尺度として磁束密度が本質であると考えられます.

ところが,磁束密度だけを使って磁性体を扱う場合,上記のように磁化電流という未知数を式に含むため応用が困難になります.そこで磁界の強さHというパラメータを導入します.それによって未知数であった磁化電流は比透磁率に取り込まれます.この比透磁率は磁性材料によってそれぞれ定まる値です.ただしこれは一定固定値ではないので注意が必要です.この比透磁率は磁性体材料のメーカなどから具体的な値と範囲を手に入れることができますので未知数は解消できます.

ここでちょっと話が飛びますが,これほどまでコイルについてかなり詳しい説明をしてきている理由は,アナログ回路ではコイル自身を回路設計者が設計するケースが多い(スイッチング電源用パルストランスなど)からです.磁性体であるコアの選定,巻き線径ターン数,磁路(コア形状)の設計等々,詳細な設計技術と理論把握が必要であると考えています.そこでコイル(トランス)の設計に欠かせない理論を網羅し磁性体材料のメーカから公開されているデータシート(仕様)に記されているパラメータを読み性能を理解するための土台としていただきたいと思います.

話は戻って,磁界の強さHの示すイメージについて考えたいと思います.無限長ソレノイドのつくる磁界H は,式1-5-6 に示したB0NI より式1-5-35(B0H)を導入すると

  H=NI 式1-5-36 磁界の強さ:H [A/m]
1m あたりの巻数:N [本/m]
ソレノイド電流:I [A]

と示すことができます.磁界の強さH の単位はアンペア毎メートル[A/m] を使います.これは磁性体中でも透磁率の影響を受けない磁界の大きさを示す尺度と解釈できます.しかし,Hの本質的に示すものは,この式に示すような電流の密度としたほうが誤解が少ないのではないかと筆者は考えます.

さらに,Hについて深く検証します.電流平面のつくる磁束密度のセクションでも電界との対応の話をしましたので,ここでもH について電界におけるパラメータとの対応を考えたいと思います.2枚の平行電流平面のつくる均等磁界と2枚の平行電荷平面のつくる均等電界の対応では,磁界のNI と電界の電荷平面密度σ[C/m2] が対応することを記しました.(無限長)ソレノイドにおけるNIH と等しい関係をもつので,電荷平面における電荷平面密度σ と等しい関係をもつパラメータが対応となります.

それは電束密度D(単位[C/m2])(1) というパラメータです.この電束密度は,単位電荷から1本の電束と呼ばれる指力線が出ると考え,その電束の単位面積あたりの密度を示すパラメータです.電束密度の特徴として誘電体の分極によって出現する電荷の影響を受けない電界の大きさを示す量として導入されます.このようにして考えるとHD には共通の特徴があります.それは,これらは人為的につくられたパラメータであるということです.このような共通の特徴があることからも,一般的にH とこのD が対応すると考えられています.

ではD についてもっと具体的に示すと,電界の大きさを示すとき,2枚の電荷平面を仮に置き,その電荷面が電界をつくると想定したときD はその電荷面の単位面積あたりの密度であるといえます.結局,物理量としてD は電荷平面密度と等価であるので,電界を発生させる要因の大きさを示しているのです.

これと同様に,Hは2枚の電流平面を仮に置きその電流平面が磁界をつくる場合,その電流平面の磁界進行方向の単位長さあたりの電流密度であるといえます.

そのためH は,磁界を発生させる要因の大きさを示しているのです.