トランジスタの静電容量
PN接合構造をもつ半導体デバイスは,キャリア濃度が接合部近くで大きく変化します.たとえばPNダイオードの場合,順バイアスを与えない状態では,接合部は空乏層となり,キャリア濃度の小さいエリアが形成されています.
この空乏層を,キャリア濃度が大きく電導率の高いP型およびN型の半導体部が挟み込む構造になっています.この状態がちょうど,絶縁体を電極板で挟むコンデンサを構成する構造になっていることからPN間には,静電容量が形成されることを以前説明しました(詳細はこちら).
図3-3-13 PN間に静電容量が形成される様子
トランジスタの場合にも,PNPあるいはNPNの接合構造ですので接合部が2箇所あります.そのため2箇所の接合部にそれぞれ静電容量が形成されます.具体的にはコレクタ−ベース間,ベース−エミッタ間に形成されます.
これらのPN間も逆バイアスを与え空乏層を介した構造として使用する場合には,PNダイオードと同様に考えることができます.しかし,通常はベース−エミッタ間は順バイアスを与え通電して使用し,コレクタ−ベース間についても通電して使用しますので,一般的な絶縁体を電極板で挟む構造のコンデンサとは少し構造が異なっています.
図3-3-14 VBEによるベース極キャリア濃度の調整
図3-3-14のように導体であるコレクタ極とエミッタ極(図3-3-4の場合N型半導体)が,ベース極(図3-3-4の場合P型半導体)を挟む構造となります.このベース極は,VBEバイアスによってキャリア濃度を調整されます(詳細はこちら).一般的にはコレクタ極またはエミッタ極のキャリア濃度よりも小さく設定されますので,抵抗体を導体で挟んで構成する,ちょうどリーク電流の大きいコンデンサのようなイメージでコレクタ−ベース間,ベース−エミッタ間に静電容量が寄生します.
コレクタ−ベース間に寄生する容量は,コレクタ容量(Cob)と呼ばれます.このパラメータは,通常トランジスタ・メーカで規定されています.また,ベース−エミッタ間に寄生する容量は,エミッタ容量(Cib)と呼ばれています.図3-3-15は,コレクタ容量およびエミッタ容量が寄生している様子を回路図に示しています.
図3-3-15 CB,BE間に寄生する静電容量
コレクタ容量およびエミッタ容量の静電容量は,PNダイオードの静電容量と同様に,それら容量間に与えられる電圧に準反比例する特徴をもちます.
トランジスタの2箇所の接合部をそれぞれダイオードで示した場合,図3-3-14のようなNPNの場合,となります.これらダイオードに対し逆バイアスで使用する場合(コレクタ−ベース間)には,電圧変動の自由度が大きいことから容量変化が大きくなり,順バイアスで使用する場合(ベース−エミッタ間)には,VF変動幅が制限され小さくなることから容量変化も小さくなります.